定番ダイナミックマイクであるSHURE「SM58」を使用した自宅スタジオでのDTM・DAWのレコーディング講座です。
公開している内容は「音質と使えるボーカルトラック録音」「SM58以外のマイクの選択」「定番マイクの理由」「SM58で覚えてゆく」「音がこもったりキンキンする場合」です。
この「SM58でDTMボーカル録音」は、2024年版の復刻コンテンツとなります。
SM58の音質と使えるボーカルトラック録音
中高域が強調されたダイナミックマイク
当サイトの「ボーカル録音に必要なマイク&ヘッドホン」あたりでも書いたと思いますが、これからDTMでのレコーディングを覚えてゆこうと思っている人には、ボーカル用に最適に調整されているシュア(SHURE)の「SM58」は吹かれにも強いので、自宅でのボーカル録音用のマイクとしてオススメなマイクです。
左上の画像を見てもらえれば分かると思いますが、「SM58」の音質は中高域が強調されていて、抜けが良いサウンドが特徴のダイナミックマイクです。
取扱いも簡単で、自宅スタジオレベルでは充分な音質でレコーディングすることが可能ですが、マイクとの距離であったり角度によって、ダイナミックマイクは音質の変化があるので、「SM58」で安定したボーカル録音をするには、その辺りを必ず頭に入れておく必要があります。
ラインナップにはスイッチなしの「SM58-LCE」とスイッチ付きの「SM58SE」が現在ありますが、これは、好みでどちらでも良いです。スイッチなしだからといって壊れやすいということはありません。
比較すること自体がナンセンス
プロのレコーディング現場では、コンデンサーマイクを基準にしてボーカリストに合ったマイクがセレクトされます。「U87」や「U67」などのノイマン(Neumann)のコンデンサーマイクが業界での定番となっています。
高音質のレコーディングを「SM58」ですることは無理ですか?という質問をもらいましたので、ここで個人的な見解を述べておきます。
予算や録音環境をはじめ、さまざまな制限のある自宅スタジオで、すべてが整っているプロのスタジオで使われている数十万円もする定番のコンデンサーマイクと、1万円前後の「SM58」を比較すること自体がナンセンスです。
使えるボーカルトラックを録音
自宅でDAWソフトを使用したボーカル録音で重要なのは、制限のある予算と環境のなかで、DTMで使えるボーカルトラックを録音できるかどうかです。
しっかりとしたセッティングをしてマイクの持つ本来の性能を発揮させてあげることにより、使えるボーカルトラックを「SM58」で録音することができます。
そのためミックスやマスタリングを含めたトータルでの楽曲クオリティーが、人に聴かせても恥ずかしくないレベルに到達するまでは「SM58」で充分だと思います。
補足として書いておくと、ダイナミックマイクがプロのレコーディング現場のボーカル録音で、まったく使われないかというと、そういう訳ではありません。
曲やボーカリストの声質によってはダイナミックマイクのほうが向くこともあり、そんなときは「SM58」などのダイナミックマイクが使われます。
注意点として「SM58」のサウンドの特徴が、声質と重なってしまい逆に合わない人もいます。特にハイトーンボイスの人には向かない場合があるので、そのときは中高域がもう少しフラットな他のマイクを検討すべきだと思います。
SM58以外のマイクの選択
ダイナミックマイクにこだわる必要はない
ギターのアンプ録りなどで使われるSENNHEISER(ゼンハイザー)のダイナミックマイク「MD421」も、コンデンサーマイクでフィットしない場合はボーカル・レコーディングに使われます。
ただ「MD421」は金額がかなり高額になりますので、ボーカルの声質などの特徴から「SM58」が合わないのであれば、あえてダイナミックマイクにこだわる必要はありません。
定番になっていない同価格帯、もしくは価格の安い、他のダイナミックマイクを、無理に冒険してまで選ぶ理由とオススメする理由が見つからないので、コンデンサーマイクを検討するべきです。
現在は「スタジオマイク導入ナビ – おすすめボーカル用マイクの比較」で紹介していますが、低価格でも優れたコンデンサーマイクがありますので、ダイナミックマイクではなく、コンデンサーマイクを導入したほうが良いと思います。
自宅スタジオ向きのコンデンサーマイクの世界の定番は1万円台で購入することができるRODE「NT1-A」で、ポップガードや、6mのXLRケーブルも付属していますので、エントリーマイクとしてもオススメです。
為替レートの変動が原因のひとつだと思いますが、1万円台だった「NT1-A」は3万円台にとなって、低価格で高音質が売りだったRODEですので、現在の価格は適正価格だとは思えません。
他のマイクを選ぶとき
コンデンサーが使える環境なら、多くの場合でボーカル・レコーディングにはコンデンサーマイクのほうが利点があるので、すでにファンタム電源を装備しているオーディオインターフェイスを利用している人は、コンデンサーマイクをチェックしたほうが良いと思います。
ひとつマイクを選ぶ際に覚えておいて欲しいのは、どんな高額なマイクでもミックスダウン時にコンプを掛けたり、EQで調整したりしますので、レコーディングの素の音をそのままで使うということはないということです。
どの製品でも定番であるものに対して不平を言う人がいますが、カラオケの2ミックスにボーカルを入れる程度の知識と技術しか持っていない人や、コンプやEQの知識を持っていない人のマイクに対する意見は、録音時のマイクの入力レベルの設定さえできていない可能性もあります。
そのため、DTMで使えるボーカル・トラックのためのレコーディングという観点では、ほとんど参考にならないので真に受けないようにして下さい。
SM58が定番マイクの理由
プロフェッショナルが認めて定番となる
SM58が50周年のときに書いた「今の時代でもSM58を選ぶ理由」を読んでもらえれば納得してもらえると思いますが、世界中で「SM58」が定番として認知されているのには、それなりの理由と実績があってのことです。
マイクだけでなく、スタジオモニターもそうですが、その分野のプロフェッショナルが認めて、そこから一般に広まって定番サウンドになってゆきます。
登場してからかなり経つので「SM58」が定番になった時期というのは分からないのですが、スタジオモニター・スピーカーの定番であるヤマハの「NS10-M Studio(テンモニ)」は、ボブ・クリアマウンテンという、超一流ミキシング・エンジニアが使い始めたことにより定番となり、生産完了した今でも、音楽クリエイターやサウンドエンジニアが使っています。
ダイナミックマイクとは関係ないですが、世界中で流行った映画「アナと雪の女王」の主題歌「Let It Go」はボブ・クリアマウンテンのお弟子さんがミキシングエンジニアとしてクレジットされています。
サントラが日本でも凄いことになりましたが、イディナ・メンゼル(Idina Menzel)の「Let It Go」良いです。(サントラは買いましたが映画は観てないです。)
定番の理由が分かるとき
定番のスタジオモニター・ヘッドホンなどでもそうなのですが、「定番」という言葉に過剰な期待をする人も多く、はじめて「SM58」を使用したときに「この程度?」と感じる人もいるでしょう。
定番製品を作った人や、実際使っている人の言葉を代弁するなら「現時点のあなたの音楽レベルがその程度」です。
自分の持っている技術や知識を疑わずに、先に製品を疑ってしまうと、マイクに限らず、どんな定番の製品も駄目ということになります。
格好から入ることももちろん重要ですが、一流のギタリストと同じギターを持って同じフレーズを弾いたからといって、音が同じにならないことは理解できると思いますが、それと同じことです。
SHURE「SM58」が「なぜ定番ダイナミックマイクと呼ばれるのか」の理由が分かるのは、しっかりとマイクの性能を活かしてないからです。
DTMならボーカルのエフェクト処理まで、しっかりできるようになると、自分に「SM58」が合うにしても合わないにしても、そのときは「なるほど」と思うようになります。
たまに覗くと「Q&Aサイト」には、首を傾げたくなるような、あまりに無責任で無知な人の回答も多々あるので、その情報をもとには決断はしないほうが良いと個人的には思います。
SM58で覚えてゆく
ダイナミックマイクの性能を引き出す
1万円前後の「SM58」に対して、高額な業界定番のNeumann(ノイマン)の「U87」や「U67」を比較対象にして説明してくれる人がいるらしいですが、ノイマンに関しては、音楽でお金を稼げるようになってから考えればよいのではないでしょうか?
そのため、世界中のスタンダードマイクとして納得のコンデンサーマイクですが、マイクを使ったレコーディング初心者の人にはノイマンは「そういう定番マイクもある」くらいの認識で良いです。
それにDAWでプラグイン・エフェクトを駆使すれば「SM58」でも充分に自宅録音では使えますので、しっかりとしたボーカル録音と、録音後のボーカルのミキシングの基本をダイナミックマイクの性能を引き出した上で覚えてゆくほうが良いと思います。
頑丈なマイクゆえにイロイロ試せる
しっかりとしたボーカル録音で、今は使うことはありませんが、わたし自身も10年以上前に購入した「SM58」を自宅に3本所有していて、言われている通りに丈夫で故障したことは一度もありません。
楽曲制作用のパソコンのほうには、仮歌であったり、作詞も含めて音をメモしたいときに、すぐに音が出せるようにマイクスタンドに常時「SM58」を設置しています。
叩いたり、投げたり、落としたりということはしていませんが、所有している複数のコンデンサーマイクと比べると、かなり雑に使っていると思います。
2本目の「SM58」は、一時期、一度録音した音をモニターから出して、さらにマイク録音するみたいなことに凝っていたことがあり、そのときに簡単に改造しています。
3本目の「SM58」は壊れたとき用の保管用ですが、一度も「SM58」は壊れたことがないので使う機会がありません。買ったままの状態なので、初期不良かどうかも確かめてないです。
とにかく頑丈であり、保管するのが楽なこともことも「SM58」が支持され続ける大きなポイントです。尚、わたしの所有しているのは、3本ともスイッチなしです。
SM58で音がこもったりキンキンする場合
質問のなかでは「SM58」でボーカル録音したときに「ボーカル音がこもっていて抜けが悪い」と「ボーカル音がキンキンする」と、まったく音質に関して違った意見が数名からありました。
実際に何名かに音源を送ってもらいチェックしたので、簡単な対策法を記載しておきます。
ボーカルがこもる場合の対策
まず「SM58」の音質に関してですが、ボーカル用に最適に調整されていますので、中高域に特徴があり、強調されているため、抜けの良いサウンドが特徴のダイナミックマイクです。
お腹からしっかりと声を出していて「こもっていて抜けが悪い」場合はマイクの入力レベルの調整ができていない場合や、マイクとボーカルとの距離が適切ではない可能性が高いです。
ボーカルがキンキンする場合の対策
男性ボーカルでしっかりとした発声ができていてファルセットではない、トップキーがA〜Bくらいの一般的なキーであれば問題はないですが、ハイトーンのボーカルの人は「SM58」の中高域の特性上、声がキンキンしてしまう場合があります。
対策として取れるのは、録音時にセッティングで「SM58」の高域の感度を悪くすることと、録音後のEQ(イコライザー)での調整となります。
まず、顎のあたりに少しマイクスタンドを低くしてから、右上の絵(ジョークみたいな絵ですが)のようにマイクを上向き設置して「SM58」の高域の感度を悪くすると、耳につく高域を軽減することができます。
SM58以外にも使える
この方法は「SM58」だけでなく、他のダイナミックマイクでも使えますので、覚えておくと良いと思います。
そして、同様の悩みを抱える人なら誰もが試したことがあると思いますが、EQで中高域の不快な耳につくポイントをカットすることです。
このふたつの方法が「マイクの持つ本来の性能を活かしているのか?」と聞かれたのなら、答えはノーですが、目的は使えるボーカルトラックのレコーディングですので、買い替えを検討する前に、ぜひ一度試してみてください。
ただ「スタジオマイク導入ナビ – おすすめボーカル用マイクの比較」で紹介している「低価格スタジオ・マイクの定番」を見てもらえればわかると思いますが、最近はマイクはかなり安くなっていますので、あまりに無理やり感がある場合などは買い替えたほうが得策です。
<後記>
全5回の記事を1ページにまとめましたが、このガイドは今までSM58に関する質問をくれた人たちへの回答も含む内容となっています。
今後「SM58」に関する質問をもらっても、個別、もしくは今回のようにページを割いての回答はしませんが、自宅スタジオで納得のゆくボーカルトラックのレコーディングができることを願っています。