洋楽的に響かせる工夫を凝らした作詞法については「メロディー先行での作詞のコツ」でも少し触れましたが、日本語と英語のおり混ざった曲はたくさんあり、ポピュラーミュージックの世界では英語を使う作詞法は当たり前のように使われています。
今回の「作詞の基礎講座 08 ~英語を使う作詞法~」では「作詞での英語の効果」「歌詞に英語を使うメリット」「作詞で使う英語」「英語詞と日本語詞のバランス」について書きたいと思います。
作詞での英語の効果
作詞で英語を上手く使えば効果的
日本の曲のサビなどで頻繁に英語の詞のフレーズを使用するのは、日本語に比べ英語のほうがメロディーと歌詞がひとつになったときの言葉の響きが良くなり大変に効果があるからです。
よく英語の詞のフレーズが日本語の曲のサビの歌詞で使用されるのはこのような理由からです。
もともとロックやポップスをはじめとするポピュラーミュージックは英語圏で生まれた音楽です。
メロディーに言葉を乗せて歌ったときに、日本語と比較して英語のほうが遥かに発音が滑らかで響きが良くなるのは、当然と言えば当然のことではないでしょうか。
英語を乱用は曲を壊す
作詞するなかで英語を上手く取り入れるのも言葉のプロである作詞家のセンスにかかっています。
それは英語を上手く作詞に取り入れることができると確かに効果がありますが、下手に英語を乱用すると「まさに素人」という感じで曲を壊してしまうからです。
そのため作詞するなかで日本語と英語を同等に使用する場合は「メロディーと絡みや響きを常に意識する」ということを心掛ける必要があります。
作詞の基礎講座3のなかで「日本語と英語を歌詞のなかで同等に使用するという背景には、先人の偉大なミュージシャンの方々の作詞における様々な工夫と挑戦があった」と書きました。
その辺のことも歌詞のなかで「無意味な英語の乱用」をしないように覚えておくと良いと思います。
作曲家のメチャクチャ英語
まだ歌詞のないデモの段階で作詞用の音源用にメチャクチャな英語で歌入れをした音源を作詞家に渡す作曲家も結構います。
これは一般的に作詞用の音源で使われる「ラ」であったり、適当な日本語でメロディーを歌うより、メチャクチャな英語で歌ったほうが響きが良く、作っていて気分が乗るからです。
わたしも以前、かなりの長い間「メチャクチャな英語」でデモ音源を作っていたときがあります。
あまりにメロディーに「メチャクチャな英語」がハマリ過ぎていると、正式な作詞の段階で、その意味不明な英語を活かそうと必死になり、そこから抜け出せなくなってしまったという経験があります。
これだと作詞に時間が掛かり過ぎるだけでなく、楽曲の世界観や可能性を狭めてしまっているような気がしたので、現在は「メチャクチャな英語」でデモ音源の制作というのは、ほとんどしていません。
もし作詞家志望の方で作曲家の方から、メチャクチャな英語の仮ボーカルのデモテイクを作詞用の音源を渡され、上記のように作詞中に行き詰まってしまう場合があるとはずです。
こういう時はハマリ過ぎている「メチャクチャな英語」を無理に活かそうとせず、一度、自分のスタンスに戻って歌詞を書くことをオススメします。
歌詞に英語を使うメリット
無理に英語を使う必要はない
作詞するときに「英語が使えたほうが良いですか?」とよく質問をもらいますが、結論から言うと、作詞をする人は「英語を使ったほうが良い」ではなく、絶対に「英語が使えたほうが良い」です。
なぜ英語を上記のように「使ったほうが良い」ではなく「使えたほうが良い」という表現を使ったのかというと、日本語で上手くマッチしている箇所に、無理矢理あえて英語を使う必要はまったくないからです。
歌詞を作るときに英語を使うことができる人には、言葉の響きが良くするという利点だけではなく、言葉のバリエーションを増やし、言葉の引き出しを増やすという点でもメリットがあります。
表現の幅も広がりますので、英語を使うことができないよりは使うことができたほうが断然に良いです。
英語での作詞を嫌う方
日本語と英語をおり交ぜる作詞を嫌う方もいると思いますが、英語を使った表現をはじめから毛嫌いしてしまっている方は、自ら表現の幅だけでなく作詞家としての可能性まで狭めてしまっている気がします。
メロディー先行が中心の音楽界で求められているのは「作詩」をする人ではなく「作詞」をする人であると、すでに何度も書いていています。
英語での作詞を嫌う方は、こだわるところがすでに違っています。ここまでの作詞講座を読まれて来た方なら、その意味がもう理解できると思います。
英語で切り口が見つかる場合もある
英語を作詞のなかに取り入れることができると、文字数を調整するのにも大いに役立ちます。
作詞の道を志す人はこれから何百曲と作詞をして行くことになると思いますが、そこで詞を書いているときに、必ず何度か行き詰まりを感じてしまうこともあるはずです。
そういう時には日本語を英語に置き換えたりするといったような感じで、視点を変えてみることにより切り口が見つかる場合もあります。
作詞で使う英語
二つのパターンの英語
日本語の作詞で使う英語には、大きく分けると二つのパターンがあります。一つは誰でもその単語の意味が分かり、すでに日本語化している「カタカナ英語」です。
「blue」や「happy」などは自然に誰もが「今日は気分がブルーだ」とか「今日はハッピーだ」というような感じで日本語として使っていると思います。
たまに受け狙いで「今日は気分が青だ」と言う人がいるかもしれませんが、裏を返せば、「blue」という英語がすでに日本語化していると言えるのではないでしょうか。
そして日本語の作詞で使う、もう一つの英語は「in your heart」であったり「in my heart」であったりする、一般的には日本語化はしていませんが、ほとんどの人が意味のわかる単語で構成された英語です。
使えたほうが良いパターンの英語
すでに日本語化している「カタカナ英語」の場合は日本語と同じ扱いなので、ケースバイケースで作詞する人が並び替えたりしながら、言葉の響きを意識しながら使って行けば良いです。
そのため特に記述することはありませんが、歌詞を作る際に絶対に使えたほうが良いのは後者の英語です。
なぜ後者の英語を使えたほうが良いかというと、例えば「in your heart」は直訳すれば「君の心のなかに」です。発音するのには「き・み・の・こ・こ・ろ・の・な・か・に」で10文字が必要となります。
気を利かせて訳しても「君のなかに」で6文字が必要となりますが「in your heart」と英語で発音すれば3文字で済みます。ハート(heart)の「ト」をしっかりと発音しても4文字で済みます。
英語詞と日本語詞のバランス
バランスと細心の注意
あまりに1曲のなかで英語を使用しすぎると、それはそれで曲自体が格好悪くなってしまいますので、英語詞と日本語詞とのバランスと細心の注意が必要です。また英語を作詞のなかで使うようになると、改めて日本語の美しさに気付かされることも多々あります。
英語を効果的に使っていて、英語詞と日本語詞のバランスという点で、Bon JoviがJ-FRIENDS(旧ジャニーズ)に提供した「Next 100 Years」が参考になり、そのコツをつかめると思います。
Bon Joviも英語でセルフカバーしていますが「Next 100 Years」の日本語詞はB’zの稲葉浩志さんが担当しています。
稲葉さんは日本の作詞の世界で、日常会話で使うような言葉を歌詞に取り入れた新しい作詞法で作詞の世界を開拓した人です。
もし日本の作詞の世界に年表があれば、必ず稲葉浩志さんの名前は必ず載るはずです。
Bon Joviも7thアルバム『Crush』のなかで、自ら「Next 100 Years」をセルフ・カバーしているので、原曲の英詞と対訳、そして稲葉さんの日本語詞を見比べてみると、作詞のなかでの格好悪くならない効果的な英語の使い方が見えてくると思います。
尚、アルバム『Crush』のなかには「Next 100 Years」以外にもCMでもお馴染みだったリードトラック「It’s My Life」や、日本のドラマの主題歌にもなった「Thank You For Loving Me」も収録されています。
なかやまきんに君の効果で『レコチョク年間ランキング2023』の「洋楽ランキング」で「It’s My Life」は1位を獲得したのも記憶に残っていますが、復活後のBon Joviの代表曲なので耳にしたことがある方が多いと思います。
洋楽を日本語詞にする
個人的に作詞家志望の方に練習として洋楽を原曲の英詞と対訳を見ながら日本語詞にするという作業をオススメします。
この作業をオススメする理由は、洋楽を日本語詞にするという作業は言葉の響きやインパクトを考えたときに「ここは日本語にせず英語のままのほうが良い」などイロイロと勉強になるからです。
また自分の作品をプレゼンするときに、オリジナルの歌詞の他に、1〜2作品程度「洋楽を日本語詞にした作品」を入れてみると面白いと思います。
他の作詞家志望の方とは、ひと味違うという印象を受取側に持ってもらえると思います。
洋楽を日本語詞にする際には、どの曲でも良いですが、プレゼンまで考えている方は、Aerosmith(エアロスミス)が手掛けた映画『アルマゲドン』主題歌「I Don’t Want to Miss a Thing」や、Celine Dion(セリーヌ・ディオン)の映画『タイタニック』主題歌「My Heart Will Go On」のような多くの日本人が知っている曲をオススメします。