この作詞の基礎講座 06では、主に「サビから作る効率的な作詞法」と「譜割り変え」について説明しています。
作曲家の許可があればメロディーの譜割り通りに、1音1語で言葉をメロディーに乗せて行く必要はありませんが、かなりのセンスが必要となります。
初期公開時は「作詞の基礎講座 05」のなかで「効率的な作詞と譜割り変え」を説明していましたが、1ページが長くなりすぎてしまったので、2つの講座にわけることにしました。
作詞用の音源と作詞時間の短縮
メロディーの入った作詞用の音源
メロディー先行の場合、作詞する人は「ラ」や「めちゃくちゃ英語」で歌われたモノや、「シンセのメロディー」など形式はさまざまですが、メロディーの入った作詞用の音源を渡してもらうことになります。
仕事での発注の場合はボーカリストの情報をはじめ、「こんな詞にして欲しい」等の情報や、ある場合はタイアップ情報等も一緒にもらいます。
最近は自宅スタジオで、DAW環境を構築している作編曲家がほとんどなので、作詞用のデモの段階でも、ある程度、アレンジまで仕上がっているものが多く、詞のイメージは、かなり作りやすいと思います。
作詞時間の短縮
アマチュアの場合は時間的な制限はありませんが、仕事となると締め切りがあるので時間との戦いでもあります。そのことを踏まえた上で、ここでは一曲を通しての効率的な作詞法のひとつを紹介したいと思います。
ただし、ここで記載する作詞法は、あくまでも個人的に使っている作詞法のひとつで、作編曲も自分で行なっていてコンセプトが固まった上で歌詞を作っているので、「すべての人に効率的か?」と聞かれたのなら正直なところわかりません。
それでも実際にわたしの場合はこの人法で、修正も含めて1 〜 2日で一曲を作り上げていますので、作詞オンリーの人でも、一曲の作詞に時間が掛かりすぎてしまっている人や、何度も書き直しているうちに軸がぶれてしまったりする人などは試してみる価値はあると思います。
効率的な作詞法
サビから作る作詞法
作詞用の音源に対して、曲の構成を把握した後に、Aメロ、Bメロ、サビというような流れに沿って歌詞を作っているという人も多いと思います。
もちろん曲の流れに沿って作詞をしていっても良いのですが、時間的な制限がある場合や、歌詞が仕上がらない場合などは、曲の構成を書き出した後、クライアントの意向などを考慮して、マンガのネーム作り(ラフな原稿)のような感じで、まずは「僕」と「君」などの登場人物と、時間軸を含めた大まかなストーリーを作ります。
そして、その作業が終わったら、いきなりですが楽曲の核であるサビから作詞をして行きます。そして、とにかくサビを作った後に、そのサビが引き立つようにAメロ、Bメロを作って行きます。
もう少し分かりやすいように、以下のスタンダードな曲の構成で例を出して説明します。
「イントロ – Aメロ – Bメロ – サビ – Aメロ – Bメロ – サビ – 間奏 – サビ – サビ – エンディング」
まず上記の曲の構成だと、サビが4回ありますが、この4回のサビで言いたいことであったり、伝えたいことを表現します。
もちろん最終段階で微調整をしても構いませんが、曲の核になる部分なので軸がぶれないことが重要です。
そして、各2回ずつのAメロとBメロで、情景描写であったありシチューエーションを書いたり、登場人物の少し内面に入ったりしながら、サビにつながり、核が引き立てるような詞を作って行きます。
以下は構成の例ですが、AメロとBメロは上手く入れ替えたり、並び替えたりしながら歌詞を完成させて行きます。
この作詞法は以下のように一覧にすると、とても簡単な作業に見えますが、なかなか難しい作業でもあります。
イントロ
Aメロ = 情景描写/シチューエーション
Bメロ = 登場人物の内面
サビ = 言いたいこと/伝えたいこと
Aメロ = 過去と現在の主人公
Bメロ = 少し前向きな気持
サビ = 言いたいこと/伝えたいこと
間奏
サビ = 言いたいこと/伝えたいこと
サビ = 言いたいこと/伝えたいこと
サビ重視を実践した形の作詞法
この核を作ってから作品全体を仕上げて行く作詞法は「採用されやすい歌詞」や「サビのフレーズと曲のタイトル」などで書いた、サビに重点をおいて作詞することを、もっとも実践した形の作詞法です。
この人法は作詞という作業を知らない一般の人からみると、確かにあまり良い印象を持たれませんし、詞先が中心だった頃の作詞家の先生たちには文句を言われてしまいそうな作詞法です。
しかし、「リスナーはサビ重視」でも触れましたが、インパクトなどを考慮すると、かなり有効な方法で、実際にCMのタイアップなどが先に決まっていて、フルコーラスで曲が間に合わない場合や、リリースの予定がない場合などは、サビだけを先にレコーディングして、クライアントに音源を渡すという実例もあります。
メロ先での作詞が身に付いていることが前提
今回ここで記載した作詞法は時間短縮だけでなく、日記の延長線のような、いかにも素人っぽい詞になってしまっている人などにも、かなり効果的で、作詞家としての新たな可能性を見つけることができると思いますので、ぜひ一度試してみて下さい。
ただし、このサビから作る作詞法はメロ先での作詞が身に付いていることが前提で、身に付いていなければ、なかなか上手く行かないことを付け加えておきます。
譜割りを変える
1音1語で言葉を乗せて行く必要はない
作詞家志望の人に参考になるように、作詞用の音源をアップしましたが、譜割りに通りに1音1語で言葉をハメ込んで行っても、なかなか上手く歌詞を乗せることができないという人も少なくないと思います。
上手く行かない場合は、渡されたメロディーの音符割り通りに、1音1語で言葉をメロディーに乗せて行く必要はありません。例えば「ラ・ラ・ラ〜」というフレーズに、「ラ・ララ・ラ〜」であったり、「ララ・ラ・ラ〜」のように1つの音符に2つの文字を入れてしまっても構いません。
これが「譜割り変え」という作業で、無意識のうちにこの譜割り変えをしている人もいるのではないでしょうか。
あまりに字余りになりすぎて、メロディーの勢いを失わさせて壊してしまう結果となってしまっては駄目ですが、メロディーと言葉の音数が合わない場合は、言葉の響きを意識して、上記したように譜割りを変えます。
作詞家のセンスや能力が問われる
言うまでもなくボーカルの歌い人などによって上手に収まることが前提で、譜割り変えをしますが、この譜割り変えも作詞家のセンスや能力が問われるところです。
譜割り変えのセンスを磨きたい人は、まずは自分の好きな作詞家の作品を教材にして、この譜割り変えをいろいろと研究してみると良いと思います。譜割り変えを得意とする作詞家の人のなかには、3つの音符のなかに5から7の文字を詰め込み、字余りをあえて計算して使うといっうような人もいます。
譜割り変えの注意点
この作業の注意点として、作曲家が嫌がる譜割り変えはしないことです。メロディーが良く響く「クリエイティブさを感じることのできる譜割り変え」というのは、基本的に作曲家は歓迎しますが、苦し紛れのクリエイティブさを感じることのできない譜割り変えは、当然ですが嫌がります。
アマチュアの人で曲の出だしから譜割り変えをする人がいますが、これはただ単に自ら「作詞家としてのわたしは能力がありません」と言っているようなもので、そこにクリエイティブさがあるはずもないのでやめたほうが良いです。